「最初から専業主婦志望の女の子は無理」な男たち

「女は25歳を過ぎたら売れ残り。」

現代の女性はこのような発言を表立って言われることは少ない。しかし近年でも、女性が結婚や出産のタイムリミットを感じ、焦ることは一般的、よくあることだ。

とくに30歳前後は結婚か仕事かという二者択一に迫られる可能性の高い、女性にとって非常に不安定な時期である。現代は共働き家庭の数も増加し、結婚しても、出産しても働くことがスタンダードになりつつある。しかし結婚しても、出産しても「正社員」として働くことが可能なのは、意外とラッキーな人であるということを、多くの人は知らない。

わたしがこのような「フルタイムで共働き意外とラッキー説」考えるに至ったのは、以下に述べることがきっかけであった。

先日、飲み会の際に独身男性(仮名Aさん)と結婚相手の理想について話した。Aさんは大手企業に勤める男性で、5~10年で勤務地が変わるいわゆる転勤族のサラリーマンである。Aさんはハンサムで人当りも良く、女性陣からすれば、「なんでこの人まだ結婚していないんだろう?」と思わせる雰囲気をもっていた。本人からすれば大きなお世話である。

予想通り、酔った女たちはAさんがなぜ独身なのかを調査し始めた。そして彼は結婚相手の理想を聞かれた際、「特に理想はないけど、最初から専業主婦志望の女の子は無理だな」と言った。

その理由としては、最初から専業主婦志望の女性は経済的に夫に依存する傾向が強いからだそうだ。したがって経済的に自立している女性がお好みらしいのだが、男性並みに働く女性(いわゆるバリキャリと呼ばれる人たち)が好きというわけでもないという。また、最初から専業主婦を志望する女性が嫌なだけで、仕事と子育ての両立の結果、やむを得ず専業主婦を選ぶというのはありらしかった。また別居婚については、最終的に単身赴任はありだが、結婚当初から別居はないという話だった。

その時は「ふーんなるほどね」と聞いていたのだが、彼のような考えを持った人は多いようだった。わたしは以前、社内婚が非常に多い企業で働いていおり、結婚当初から別居婚で共働きという夫婦も一定数いたので、そういうものかと少しモヤモヤとした感情を抱いた。

話を聞くとどうやら彼の会社の男性社員の妻は専業主婦が多いらしかった。男性の転勤が多く、もし夫に妻が帯同する場合、よほどの専門職でなければ仕事を探すのが難しいためだ。

しかしそのような状況をふまえると、彼の「最初から専業主婦志望の女の子は無理だな。」発言はどこか不自然に感じられる。なぜなら別居婚を望まず妻に転勤についてきて欲しいのであれば、最初から専業主婦を望む女性のほうが、都合がよさそうだからだ。

最初から専業主婦を志望しないが、結果的に専業主婦はあり…ということは、専業主婦を選択せざるを得ない状況であれば、専業主婦を選択しても良いということになる。しかしハナから男性に経済的に依存する女性ではいけない。一体「最初から専業主婦志望ではない女性」とはどんな女性なのだろうか。

彼の真意は十分にわからないため、ここではあくまで独自の見解を述べる。わたしは最初から専業主婦志望ではない女性というのは、いざとなったら自分と同じように働く意欲のある女性、つまり家庭の経済状況によって柔軟に働いてくれる女性を指しているのではないかと考えている。

国立社会保障・人口問題研究所が2015年に実施した「第5回出生動向基本調査」によれば、男性がパートナー(あるいは妻)となる女性にはどのようなタイプの人生を送ってほしいと思いますか」の質問に対して、男性の37.4%が女性に「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを望んでいることが分かっている。

これはさきほど紹介した男性の理想におおむね一致するのではないだろうか。何かあったら家計を助けてくれる(しかし自分が稼ぐので、メインではなくていい)。けれど子供が小さい間は仕事をセーブし、家事や育児に従事してくれる女性である。これは一部の男性にとって非常に都合の良い存在である。

それでは女性にとって「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」というライフコースは、果たして都合がいいのだろうか。

さきほど紹介した「第5回出生動向基本調査」によれば、女性は「現実の人生と切りはなして、あなたの理想とする人生はどのようなタイプですか」という質問に対して、34.6%が「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを理想としていた。これは「結婚し子どもを持つが、仕事も一生続ける」の32.3%とほぼ同じである。女性も男性と同様に、ある一定数「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを支持していることが分かる。

この背景には日本における男性の育児休暇取得率の低さや、保活の厳しさなどの問題に加え、女性自身が「やはり子供が小さいうちは母親が面倒をみるべきだ」と考えていることが大きいように思う。

もちろん男性側も女性側も「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことが理想なのであれば、お互いの希望が一致したことになり、とりわけ問題視することではないのかもしれない。

しかしながら必ずしも、「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを理想する男性のパートナーが、そのことを理想とする女性とは限らない。そのような女性は結婚、もしくは出産の際、葛藤することになる。

一つ事例を紹介したい。私の友人Aはまさに、プロポーズの際、「結婚か」「仕事か」の二者択一に迫られた。彼女は大手の会社で働いており、昇進を希望していたがかなわなかった。その折に彼女は付き合っていた男性からプロポーズを受ける。

彼女の結婚する男性は海外勤務が決まっており、そのことをきっかけに知人にプロポーズしたらしい。男性はAについてきてくれることを望んでいた。男性は友人に「僕はAの選択を尊重したい。人生にかかわる大切なことだから、じっくり悩んで決めてほしい」と言ったという。彼はAを尊重してそのように言ったのだと思う。しかし人生における重大な決断を女性のみに判断させることは、過酷である。最大限に卑しい見方をすれば、何かあってもあなたが決めたのだから。という責任逃れができる。

また一方で、女性側が「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを理想として、実際にそのようなライフコースをすすんだとする。このライフコースもまた、別の問題にぶち当たる可能性がある。それは子育てが落ち着いた際に彼女たちが働き口を希望しても、正社員としての再就職が難しいことである。結果たとえ再就職したとしても非正規雇用で働くことが多く、景気の後退によって不安定な雇用になりやすい。今回のコロナ禍では非正規労働者である女性が簡単に切り捨てられる姿が浮き彫りになった。

「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」女性は、企業にとっても雇用の調整弁として都合のいい存在である。

現代は共働き家庭の数も増加し、結婚しても、出産しても働くことがスタンダードになりつつある。しかし結婚しても、出産しても「正社員」として働くことが可能なのは、意外とラッキーな人であるとのかもしれない。なぜなら、男性の一定層が「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」ことを理想としているからである。

現在日本では制度、仕組みを整えたとしても、女性の社会進出がすすむことは難しいだろう。根本で、性別役割分業の意識がある限り問題は解決しない。制度が活用されることがなかったり形骸化してしまうだろう。